北川一恵「網走食堂」


 昨日までで、てんとうむしのギャラリートークは7回を終了。会期中に全部で28回開催予定ですので、4分の1が終了したことになります。これまでの7回を思い返してみると、人生って本当に色々なんだなぁと感慨深く思います。そして、これからの21回で、果たしてどんな話がきけるのか、とっても楽しみです!

 さて、8回目の今回は、京都芸術センターのボランティア・スタッフの北川一恵さんが担当されました。題して、「網走食堂」。いったいどのような話が聞けるのでしょうか・・・。
 北川さんのお話は、いきなりクライマックスからはじまったような感じでした(北川さんのお話をここに書いてしまうと楽しさが半減すると思いますので、お話の内容については後日アップする動画をご覧下さい)。その後1時間半、網走での食堂経営やそこで出会った人々、あるいは北海道の大自然のお話が、すさまじい密度で展開していきました。

 これまで僕は、本展で言う「素振り」とは、ざっくり言ってしまえば、誰かのお話を聞くことを通して自分が持っているものとは違った価値観に出会うことだと考えていました。要するに、「素振り」をしているのは聞き手の方だと思っていました。しかし、今回の北川さんのお話を聞いていて、今回のギャラリートークでは、話すほうにとっても「素振り」的な運動になっているかも、と思いました。
 北川さんは20年ほど前の思い出を語られる際に、とても活き活きとお話をされていました。そのとき北川さんはただ過去を語っていたのではなく、きっと、過去を「生き直して」いたと言えるのではないでしょうか。言い換えると、人生の過ぎ去ったひとつの季節を語っていたのではなく、自分の「いま」としっかりと繋がり、「いま」を確かに支えている出来事について語られていたように思えるのです。
 そのような意味で、今回のトークイベントは、話者自身が自分の人生を振り返り言語化することを通して、人生を捉えなおし、将来に向けた準備運動をしていると言えるでしょう。

 それともうひとつ。北川さんの力強さに、今日のお客さんはみなパワーをもらったのではないかと思います。これはたぶん、話の内容もさることながら話し方に拠るところが大きいのではないかと思います。
 例えば苦労話を話す場合、明るく笑いながら話すのか、あるいは逆に暗くしめっぽく話すのかでは、印象が大きく異なってきます。北川さんは、と言えば、圧倒的に前者にあてはまります。ただひたすらに明るく、ユーモアに満ちています。
 だから聞いている僕たちも明るくなる。きっと苦労もたくさんされたことと思いますが、過去の苦労は過去のものときちんと整理して、今を前向きに生きている印象を受けました。
 
 こういうことは、文章にしてしまうとチープで説教臭いお話みたいに思えますが、きっと、生きていく上で大切なことではないかと思います。そして人と関わっていく中で自分にとっても、関わる他者にとっても有意義なことではないかと思います。
 
 何を書いているのかよく分からなくなってしまいましたが、明るくにこやかな北川さんのお話を聞いた僕は彼女から元気をもらったし、彼女のことを素敵な大人だと思ったのでした【京都芸術センター安河内宏法】
 
 *明日はボランティア・スタッフ住本剛史さんによる「地方球場の涙」です!午後6時半からです。皆さんどうぞお集まり下さい。